即興に関する考え事メモ。

即興的な稽古をしている演劇人は(たぶん)少なくない。

世界中の名だたる演出家は、即興を稽古場に持ち込み、良き俳優を育て、良き作品を創作してきた。

しかし逆に「即興で作ってもあまり面白いものは出てこない。やればやるほど俳優はつまらなくなる。創作のヒントにしかならない」と思っている方も少なくないのでは。経験的に言うと、漫然と即興をやってもあまり面白いものは出てこないと思う。それは端的に言えば、演出家や俳優が「どのように即興すればいいのか」を知らないからだ。

即興のやり方を知らないことによってうまくいかない例としては、以下が考えられると思う。

(1)本質的に人間は危険を回避したい生き物:まず人間の常として、身の危険が起こりそうなときには、それを回避しようとする行動をとる。即興でシーンを作るとき、それは想像の世界なのだが、それでも未知の世界は怖い(脳科学では、脳は想像の世界と本当の世界の区別がつけられないと言われている。すみません引用ないです)。だから相手や自分のアイデアを否定して先に進まないようにしまう。稽古場で即興をやって、ぜんぜん話が面白くならない原因はそこにあったりするかも。

(2)即興は自分の中からしか出てこない:即興でやることは、すべてその人の中からしか出てこない。それはその人の過去であり経験である。だから漫然と即興をやると、その人の癖やパターンからの表現しか出てこなくなる。マンネリだ。演出家や俳優はここで、俳優の自分の相手役の新しい面を引き出すための即興的な指導のスキルが必要になる。でもそれを知らないと、やっていることが「これ見たことある。いつもと同じ」になってしまう。マンネリになるとやっている本人も面白さを感じられなくなる(ブルックが退屈は罪だと言ってた。たしか「何もない空間」?)

稽古場で漫然と即興をやっても、あまり面白いものができないのは、ここに理由があると思う。

どのように即興すれば面白いものが創作できるか。
これにはスキルがある。

ゴーリエもルコックもそれ以外のたいがいの演出家は、即興をトレーニングに使ったし、使っている。しかしそれは表現を引き立すためのツールである。大事な点は、よき俳優を育て、おもしろき舞台を創ること。そのための手法のひとつでしかない。だから「即興をどのように使うか」というツールそのものの使い方のトレーニングはしていなかった。

さて。括弧付きの「インプロ」の新しさはここにあるように思う。「ツールの使い方」を明示しているから。即興的に創作するときの基本的なスキルを学ぶことができる。もちろん基礎を学んだら、そこからどのようにでも自分たちなりに展開させればいいし。

このスキルはぜんぜん難しいものではないし、
誰でも知っておいて損はないし、
使い勝手がよい。

俳優はもちろんのこと
演出家や劇作家にも。

さから、できれば
演劇にたずさわるすべての人々に
知ってもらいたいなあ〜と
思います。