昨日のマーケットシアターでのリハーサルを見ながら「なぜこっちのインプロバイザーは日常のリアルな生活や人間同士の機微を、こんなに表現できるのだろうか」と考えていた。
大きな違いは、時間とスペースかもしれない。
「時間の質」:こちらのリハーサルはeasy going。時間がゆったりと流れている(ように私には感じる)。緊張したムードはひとかけらもない。日本の演劇やインプロのリハーサル時にありがちな、はりつめてコンペティティブな「エネルギーをあげなきゃ」な「ハイテンションを重視する」傾向はここにはない。この「ゆったりさ」は、いい意味で、俳優たちに「思考=創造する」余裕を与えているように感じた。
「スペース」:リハーサルは劇場で行われた。この劇場はこのインプログループが運営しているので、好きなようにスペースを使うことができる。キャパは200ぐらい。舞台上は決して広くない。けれどインプロがしやすいように、出はけの場所が複数あって使いやすい。自分たちで改造ができるので、ちょくちょくみんなでリノベーションをして改善されている。リハーサルには、照明さんも音響さんも(プロじゃなくボランティア)稽古につきあってくれている。つまりリハーサルだけど、すでに「観客に見せる」ことを前提とした通しが毎回できることになる。
「精神的なスペース」:劇場としては十分な集客ができているし(週末の「シアタースポーツ」は連日満員)、インプロのクラス(5クラス)は満員なので、経済的な部分での心配をする必要がない。メインのパフォーマーたちは「実験的な試み」をする余裕を持つことができる。昨日のリハーサルも実験的な試みである。ここのメンバー(Unexpected Production)はそれを十分に理解して、「シアタースポーツ」などポピュラーなショーもやるし、実験的な試みもやっていこうというバランスのとれた考え方を持っていると思う。
さらに「シアトル」という場所にも理由があるかもしれない。
インプロのメッカであるシカゴは、多くの若い俳優志望者たちがインプロのクラスを受けていて、そこからレギュラーメンバーになれる人は一握りだ。LAやNYだと、さらにコンペティティブになる。環境自体が俳優たちをそうさせる。これらの環境では「生き残っていく」とか「とにかく誰よりも上手くなる」というような差し迫った緊張感をもって活動しなくてはならない。
また強力な思想をもったグルが君臨する環境だと、そのグルの考え方に全体がひっぱられる(自分たちだけが正しいと主張するような)。
それはそれでグループ的には強力になっていくかもしれないが、表現的には偏ったものになる。「コメディスポーツ」がベストとか(アメリカでは「シアタースポーツ」より「コメディスポーツ」のほうが有名だし人気がある)、「ロングフォームのほうが優れている」とか。
しかし、シアトルはいい具合に、そういうコンペティティブな環境から離れている。派閥をつくらず、両者の良いところを吸収することができている。ランディがグルにならない性格であるところもいいところだ。(おそらくランディが一番、アメリカのインプロの裏歴史を知っている人だろうけどね〜)。
「経済的なスペース」:さらに経済的な豊かさも理由かもしれない(グーグルあるし)。人々が経済的に豊かなので、みんなまともな家に住めている(もちろんみんなじゃない)。まともな生活をしている。家族と過ごすとか、キャンプに行くとか、山に登るとか、海にいくとか。街の豊かさが、豊かなインプロ環境を育んでいるのかもしれない。
「以下、絹川の偏見」:都会で生活している人たちは、そういうまともな生活ができていない人たちが多いんじゃないかな(わたしは東京にいるとそうなるよ)。東京に住んでいる人はいつも忙しそう(スケジュールを合わせるのが大変)。家族と過ごす時間は少なそう。レジャーを楽しんでいる人も少なそう。女性の関心事はダイエットと自分探し。男性が詳しいのは仕事のこと。若者が詳しいのはゲームとアニメ。日本でも都会を離れて生活している人たちは、毎日の豊かさを味わいながら生活しているように見える。別に都会だから/田舎だからというわけではないかもしれないけれど、人間は環境に左右されるものだから。うだうだ。。。
何を言いたいかというと、インプロではその人の生き方が反映されるので、豊かな経験をたくさんしている人のインプロはやっぱり豊かで、その逆もあるということです。豊かに生きよう〜。