【 作業プロセスから見る「優秀になっていく人/そうでない人」
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先日、東京大学大学院で、「創造性」研究の第一人者
パリ大学のトッド・ルバート教授の特別レクチャーがありました。
しかも岡田研究室だけに特別に行われました(ラッキー!)。
ルバート教授は、創造性と感情の関係、知的にすぐれている子どもたちについて、
芸術を会得する学生の成長プロセス、バーチャル空間での人間の振る舞いなど、
広く研究されています。
パリ大学では、たくさんの研究者が豊かな環境で、ダイナミックな研究をされているそう。
東大とは大違い(苦笑)。うらやましい限りでございます。
さて、そこでとても興味深いことを伺いました。
研究中のプロジェクトもあるので、すべてはお話できないのですが、
すでに論文になっている部分のみ、ここで2つ紹介します。
まず面白かったのは、
芸術学部学生(大学院生)の創作プロセスの「認知と感情」を調べたところ、
優秀な者は「創作中は幸せ〜!楽しい〜!」でも作業が終わって自分の作品を振り返ると、
「作品に納得できない」という気持ちを表明するのに対して、
優秀でない者は「創作中は苦しい。でも作業が終わると満足」ということです。
補足すると、ここでいう「優秀/そうでない者」の基準は、
この後にプロの芸術家になれたかなれなかったかということです。
つまり学生時代〜その後の追跡調査もしっかりなされているということを示します。
そして、彼らを指導する教員の振る舞いについても調査されました。
どのような教員から、上記のような優秀な学生/優秀ではない学生が
生まれるかという点です。
ここでの「よい/悪い教員」の基準は、優秀な学生を輩出したか輩出できなかったかです。
どのような教員だといい学生が育つのでしょうか。
それは彼らが学生に対しておこなう「評価の仕方」にありました。
調査によると「優れた指導者」は優れた学生に対しての称賛を惜しまないで
「君は素晴らしいよ!この作品はすばらしい!」と言うがけれど、ダメな学生には厳しいコメントをする。
しかしダメな指導者は、優れた学生に対してもダメな学生に対しても「まあ〜いいんじゃない」という
曖昧な評価をするらしいということです。
これはあくまでも、フランスの学生と指導者を対象とした調査なので、
日本に当てはまるとは限りませんが。
これは「どんなことにも当てはまるなぁ〜」と思いました。
たとえば、インプロのショーでも、舞台上でやっている姿を見ていて
「あきらかに苦しそう」なパフォーマーがいます。
しかし不思議なことに、彼らに「公演どうだった?」と聞くと
「楽しかったです!」って答えるのです。
本番中の舞台の様子では、あんなに苦しそうに見えたのに、、。
逆に、舞台で素晴らしい表現をしたパフォーマーに、後で感想を聞いてみると
「まだまだ足りなかった。こんな風にもできた」とたくさんの反省が帰ってきます。
常に満足しきれない。だから練習し、次の舞台に立ちます。
それにしても本番中には楽しめていないのに、終わってから「楽しかった!」と言う現象は
とても興味深いものです。
自分の状態を自覚できていないのか、苦しんでいる自分を認めたくないのかな??
これは今後の研究テーマになるかも。
また指導者についても「なるほど」と思いました。
学生の指導をするようになってつくづく思うのですが、
彼らに「厳しい言葉」を言うのは、こちらにとっても楽ではありません。
学生に嫌われるかもしれないし、パワハラとか言われるかもしれないし(苦笑)。
学生を育てる責任から逃げれば、コメントも曖昧になるのは当然です。
しかし、上記の研究を見ると、ホントウに学生に成長してほしかったら、
厳しさと応援の両方をする必要があることが分かりました。
このようにルバート教授から教えていただいた研究は
わたしの興味分野であるインプロにも、もしかしたら応用して考えることが
できるかもしれないと思いました。
しかしルバート教授はこうおっしゃいます。
「この結果は、あくまでも、これはフランスの芸術大学院の学生に限った話しで、
普遍的とは言いきれない」。つまり「簡単に、別ジャンルでも“同じだ”としてはいけない。
ちゃんと調べなくてはいけないよ」ということです。
ルバート教授は、大きな意味での研究者としての立ち振る舞いを、
甘やかさず教えてくださいました。
そういう意味で、彼もまた素晴らしい指導者といえましょう。
今後もいろいろ勉強して、人々の役にたつような研究を
していきたいと思います。
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